2025年(令和7年)4月より新たにスタートした「中小企業新事業進出補助金」(正式名称:中小企業等新事業進出支援事業)は、中小企業の新市場・高付加価値事業への進出を支援する新たな補助金制度です。この記事では、補助金の概要から申請方法、活用のポイントまでを徹底解説します。
【この記事でわかること】
- 補助上限9,000万円(賃上げ特例適用時)の大型補助金の概要
- 補助金申請の対象となる企業と事業
- 補助金申請に必要な要件と手続き
- 審査のポイントと採択されるためのコツ
1. 中小企業新事業進出補助金とは
中小企業新事業進出補助金は、従来の「事業再構築補助金」の後継的位置づけとなる補助金制度で、既存事業とは異なる事業への前向きな挑戦を行う中小企業等を支援するものです。
目的
- 中小企業等の新市場・高付加価値事業への進出支援
- 企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上
- 賃上げの促進
特徴
- 最低補助額が750万円と高額(小規模な投資には不向き)
- 賃上げ要件が厳格(未達成の場合は補助金返還義務あり)
- 機械装置・システム構築費が必須経費
本補助金は経済産業省中小企業庁が所管し、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施しています。
2. 補助対象者
本補助金の対象となるのは、日本国内に本社および補助事業実施場所を有する中小企業者等です。
対象となる中小企業者の定義
業種 | 資本金 | 常勤従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
対象外となる事業者
- みなし大企業(大企業が実質的に経営に参画している中小企業)
- 公募締切日の16か月以内に「新事業進出補助金」「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」の採択を受けた事業者
- 応募申請時点で従業員数が0名の事業者
- 新規設立・創業後1年未満の事業者(決算書1期分以上が必要)
- 過去に事業再構築補助金で採択取消や返還命令を受けている事業者
注意点: 専ら本補助金の対象事業者となることを目的として、資本金、従業員数、株式保有割合等を変更していると認められた場合には、申請時点にさかのぼって補助対象外となる場合があります。
3. 補助金額と補助率
補助上限額・補助下限額・補助率
- 補助率:一律1/2
- 補助下限額:750万円(小規模な投資は対象外)
従業員規模に応じた補助上限額は以下の通りです:
従業員数 | 通常の補助上限額 | 大幅賃上げ特例適用時 |
---|---|---|
20人以下 | 2,500万円 | 3,000万円 |
21~50人 | 4,000万円 | 5,000万円 |
51~100人 | 5,500万円 | 7,000万円 |
101人以上 | 7,000万円 | 9,000万円 |
大幅賃上げ特例
補助事業実施期間内に以下の2つの要件を両方満たす場合、上限額が引き上げられます:
- 給与支給総額を年平均6.0%以上増加させる
- 事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げる
重要: 大幅賃上げ特例を適用して高い補助額を受けた場合、賃上げ要件未達成時には補助金返還義務が生じます。計画は確実に実行できる内容にしましょう。
4. 事業要件
本補助金の申請には、以下の6つの基本要件(賃上げ特例適用を希望する場合は7つ目の要件も)をすべて満たす必要があります。
(1)新事業進出要件
「新事業進出指針」に示す「新事業進出」の定義に該当する事業である必要があります。
- 既存事業と異なる事業であること
- 新市場や新製品・サービス等の高付加価値事業であること
- 一定以上の規模や成長が見込まれること
(2)付加価値額要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(または従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること。
(3)賃上げ要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかを満たすこと:
- 一人当たり給与支給総額の年平均成長率が、事業実施都道府県の最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
- 給与支給総額の年平均成長率が2.5%以上
(4)事業場内最賃水準要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業所内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い水準であること。
(5)ワークライフバランス要件
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定・公表していること。
(6)金融機関要件
補助事業の実施にあたって金融機関等から資金提供を受ける場合は、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受けていること。
(7)賃上げ特例要件【要件未達の場合、補助金返還義務あり】
賃上げ特例の適用を受ける場合の追加要件:
- 給与支給総額を年平均6.0%以上増加
- 事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げ
注意点: 賃上げ要件、事業場内最賃水準要件、賃上げ特例要件については、目標未達の場合に補助金返還義務が発生します。確実に達成できる計画を立てましょう。
5. 補助対象経費
補助対象経費は以下の9種類です。このうち、機械装置・システム構築費が必須となります。
経費区分 | 詳細・上限等 |
---|---|
①機械装置・システム構築費 (必須) | 専ら補助事業のために使用される機械装置、工具・器具、専用ソフトウェア等の購入・構築・改良等に要する経費 |
②建物費 | 専ら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設等の建設・改修に要する経費 |
③運搬費 | 運搬料、宅配・郵送料等の支払に要する経費 |
④技術導入費 | 知的財産権等の導入に要する経費 |
⑤知的財産権等関連経費 | 特許権等の知的財産権等の取得に要する弁理士費用等 |
⑥外注費 | 新商品・サービスの開発に必要な加工や設計等の一部を外注する経費 (上限:総額の10%以内) |
⑦専門家経費 | 事業の遂行に必要な指導・助言を受けるために支払われる経費 (上限:100万円) |
⑧クラウドサービス利用費 | クラウドサービスの利用に関する経費 |
⑨広告宣伝・販売促進費 | 新市場開拓のための広告宣伝、展示会出展等に要する経費 (上限:売上高見込み額の5%以内) |
補助対象外となる主な経費
- 既存事業にも活用できる汎用的な設備投資
- 家賃・水道光熱費等の固定経費
- 人件費・研修費等
- 消耗品の購入費
- VAT・消費税等の各種税金
- 事務所等に係る家賃、保証金、敷金、仲介手数料、光熱水費
- 電話代、インターネット利用料金等の通信費
- 商品券・金券類
- 自動車等車両の購入費・修理費・車検費用
- 飲食・接待費、交際費、その他の間接経費
ポイント: 機械装置・システム構築費が必須経費となっています。単なる既存業務の効率化のための設備投資は対象外で、新事業進出に直接関わる設備投資である必要があります。
6. 申請手続きとスケジュール
公募スケジュール(第1回公募)
- 公募要領公開:令和7年4月22日(火)
- 公募締め切り:令和7年7月10日(木)18:00まで【厳守】
- 採択発表:令和7年10月頃(予定)
申請前の準備
以下の準備が必要です:
- GビズIDプライムアカウントの取得(発行には1週間程度かかります)
- 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表(1~2週間程度かかります)
- 必要書類の準備
必要書類
- 決算書(直近2期分)
- 従業員数証明書(労働者名簿等)
- 収益事業関連書類
- 固定資産台帳
- 賃上げ計画表明書
- 金融機関確認書(資金調達の場合)
- 各種宣誓書類
申請方法
申請は電子申請システムのみで受け付けます(郵送・持ち込み不可)。申請にあたっては、以下のポイントに注意してください:
- 申請者自身が申請する必要があります(代理申請不可)
- 事業計画書は申請者自身が作成する必要があります
- 申請締切直前は電子申請システムが混み合うため、余裕をもって申請してください
重要: GビズIDプライムアカウントの取得や一般事業主行動計画の策定・公表には時間がかかります。これらの遅れによる申請期限の延長は一切認められないため、早めの準備が必要です。
7. 審査のポイント
審査は以下の項目について行われます。特に「①事業の革新性」と「②事業実施の必要性・実現可能性」が重視されます。
主な審査項目
- 事業の革新性
- 既存事業と異なる新たなビジネスモデルの構築
- 新市場開拓・新製品開発による高付加価値化
- 革新的サービスやプロセスの導入
- 事業実施の必要性・実現可能性
- 市場ニーズ・競合状況の分析
- 実現に必要な経営資源(人材・技術等)の確保
- 投資計画と収支計画の妥当性
- 政策面での効果
- 事業実施による付加価値額の向上
- 雇用・賃金増加の見込み
- 地域経済への波及効果
加点項目
- 賃上げ特例(事業期間内に給与支給総額6.0%以上増加、最低賃金50円以上引き上げ)
- 若者・女性活躍推進(若者・女性の活躍推進に資する取り組み)
- 地域経済貢献度(地域の特性・強みを生かした事業展開)
- デジタル技術活用度(デジタル技術を活用した業務効率化や新サービス創出)
採択されるためのポイント:
- 具体的な市場調査・競合分析に基づく事業計画であること
- 新規性・独自性のある取り組みであること
- 収益計画が具体的かつ実現可能であること
- 設備投資と事業計画の整合性があること
- 賃上げ計画が実現可能であること
8. まとめ(活用のポイント)
最後に、中小企業新事業進出補助金を効果的に活用するためのポイントをまとめます。
申請前に確認すべきこと
- 自社の事業が「新事業進出」に該当するかをしっかり確認する
- 賃上げ要件を達成できるかを経営状況から現実的に判断する(未達成の場合は返還義務あり)
- 必要な設備投資が明確かつ「専ら補助事業のため」に使用できるものか確認する
- 必要書類(GビズID、一般事業主行動計画等)の事前準備を早めに行う
事業計画作成のポイント
- 市場ニーズや競合分析に基づいた具体的な事業計画を作成する
- 補助事業と会社全体の経営戦略との整合性を明確にする
- 設備投資と売上増加、付加価値向上の関連性を明確にする
- 実現可能な収益計画と根拠を示す
- 賃上げ計画は無理のない現実的な内容にする
最終チェックポイント
- 補助金下限額が750万円と高いため、投資規模が十分か確認
- 機械装置・システム構築費が必須経費になっていることを確認
- 賃上げ要件・最賃水準要件の未達成時の返還義務を理解
- 「一般事業主行動計画」の策定・公表が完了しているか確認
- 資金調達計画(自己負担部分の資金確保)を確認
中小企業新事業進出補助金は、新市場・高付加価値事業への進出を目指す中小企業にとって大きなチャンスとなる補助金制度です。しかし、要件が厳しく、未達成の場合の返還義務もあるため、十分な準備と現実的な計画が必要です。
また、申請や事業計画の作成に不安がある場合は、よろず支援拠点や商工会議所、認定経営革新等支援機関などの公的支援機関に相談することをおすすめします。
本補助金の詳細情報は、中小企業新事業進出補助金公式サイトでご確認ください。
※本記事は2025年5月時点の情報に基づいています。最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。